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☆アイテールの絵本屋さん☆

☆アイテールの絵本屋さん☆

アルカディアの聖域~第二章後編その3~

~アリアン広場オアシス付近~

「アイさあぁん!」

誰もいない広場に、フロの声が響く。
よく見るとオアシスの湖畔ーというのも変だろうが、ピンクのキャミソールにジーパンをはき、体育座りで座っているアイがいた。

「あ! アイさぁーーーーん!!!」

アイは声のする方に首を傾け、すぐに正面に向き直って手だけをひらひらさせた。
「はぁ・・・はぁ・・・」
大分探し回ってようやくここにたどり着いたのだろう、荒い息を整えながら声を絞り出す。
「さ、探しました・・・ すご、走って・・・・・・」
「とりあえず落ち着きなさい ほら、座る座る」
アイはフロを見上げつつ促す。
「は、はい・・・・・・」
フロは言われるままにアイの傍らに座る。

水面は透き通り、その中にいる魚や昆虫がよく見えた。

「覚えてる? フロが初めて口を開いてくれたこの場所
 私がさ、一言も喋らないフロをつれてここまで案内して」

アイはそのときのことを思い出しているのか、少し、笑う。

「どうかしたんですか・・・・・・?」
「いや、だって第一声が『僕の事ガキ呼ばわりしないでください』だったしねぇ」
フロはすこしムッとしたように抗議する。

「だって、アイさんいっつもガキガキいってたじゃないですか・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
アイは黙っている。
その横顔に微笑みをたたえながら。
しかし、その目は語っていた。


明らかに、『私は過去、物言わぬ少年を、畏怖していた』と。


一瞬フロは、声をかけようとしたが、何と言っていいのか解らず黙る。

その時、一陣の風が吹き、二人を導くかのように小さな竜巻を作る。
二人は常識では考えられない自体に困惑気味で

「これは・・・?」
「なんでしょう? これ・・・・・・」

そろって頭に疑問符を浮かべた。
小さな、30センチくらいの竜巻は、二人の目の前で回転を続ける。
時折、左右にくねくねと身体(?)をゆらし、そこにたたずんでいた。

「あ」

突然、アイが呟く。

「え? なんですか? これのこと何か知ってるんですか?」
フロもアイの方を振り向き、竜巻を指さしながら聞いた。

「聞いたことがある・・・ えと、たしかこれは風の元素精霊だよ」

竜巻に触れようとし、一瞬手を引っ込める。
「かぜのげんそせいれい?」
フロは首をかしげ、突然ハッと顔を上げた。
「風の元素・・・ 元素!?」

「うん そう 私実際に見るのは初めて・・・・・・」
うわぁと感嘆の声を漏らしながらアイはその竜巻にそっと触れる。
接触した部分がポワッと緑に輝き、風の元素精霊は嬉しそうにくねくね揺れた。

「アイさん、この存在がこんな所に居て良いんですか・・・・・・・・?」
「う~ん・・・・・・ 普通、元素精霊は宝玉の中にしかない魔力で出来てるから
 ここに存在していること自体が私には不可解だよ・・・・・・・・」


「あ、こんな所に! マスター 発見しま・・・・・・・・」


突然後方から、槍を持った軽装の女性がタッタッタッと走ってきて
二人を見て言いかけていた言葉をぐっと飲み込む。

そのまま、アイとイクィは黙ったままお互いの目を見つめ、そのまま硬直した。
文字通り 直立不動である。
フロはどうして良いか解らず、睨み合いをしている二人と未だくねくねと身体をゆらしている風の元素精霊を交互に見ながら(;´Д`)←な顔をしている。

「イクィ」

アイが沈黙を破り、正面にいる女性に言う。
張り詰めた空気が、その場の空間を満たしていく。

「胸揉ませt」

アイは最後の一言を言い終わるか終わらないかのところで、トグの投付けた荷袋が頭にあたり
「ギャーーーース」
と叫びながら地面をごろごろと転がっていった。
「探したぞ? イクィ 大丈夫か?なにもされてないか?」
イクィは困った顔でトグと地面で苦悩してチキショーと呟くアイを交互に見つめおろおろしている。
「トグさん あの えと・・・」
フロは戸惑いながらトグに話しかける。
「んお フロ 元素精霊を守っててくれたのか ありがとな^^」
トグはフロの頭をわしゃわしゃと撫で、風の元素精霊に向かって話しかけた。
アイにはあまり興味がないようであったが。
「さぁ、来るんだ」
厳しい顔で、トグは片手にオーブを持ち、元素精霊に向け

『ミ、ミミィーーーーーー!!!!!』

刹那、元素精霊は疾風の如く (いや 風だが) アイのそばに移動する。
アイは背中に気配を感じ、頭を押さえつつ上半身を起こす。


「む なんか来た」
けだるそうな声。

『ミィー・・・』
微妙だが、左右に震えるように揺れている。

「さっきの竜巻・・・ よしよし おいでー」
手で愛玩動物をあやすように。

『ミィ♪』
嬉しそうにゆらゆら、ゆっくりアイの胸の中に移動する。

「そっかぁ キミは竜巻なのかー キミは、竜巻なのかー・・・?」
多少困惑気味に腕で抱き寄せる。

『ミィ~~♪』
くねくね。

「そっかそっか かつお節かぁ^^」
多少では言い表せられないほど困惑気味。

『ミミィ~~♪』
ゆらゆら。


不思議な竜巻と少女の会話は結構弾んでいるようだ。
「はぁ・・・ アイになついちまったか・・・・・・」
トグはため息をつきながら荷袋の砂を払う。
眼前で繰り広げられている意味不明な会話には別段興味はないようだった。
「トグさん なんでここに風の元素精霊が・・・?」

通常、世界の全ては、1種類から4種類の元素によって構成されている。
アイ達がいる世界は『地世界』とよばれ、水 風 土の元素がある。
聖域の世界は『中間世界』 ここには 火 雷 氷の元素がある。
物質は2種類の元素が交わり硬化することによって初めてそこに『ある』と認識される。
元素自体は単体では存在できないのである。

そして、元素精霊。
一つの元素が集まり、収縮され出来た属性の結晶とも言えるべき精霊である。
精霊自体は元素があればそこ『ある』とされるのだ。

「実は、風の元素精霊が アイを追ってこの世界にやってきたんだ・・・・・・」
トグは、アイの胸の中にいる風の元素精霊を見ながら言う。
「私たちは、風の元素精霊を追ってこの地『地世界』にきたんです」
イクィはアイの方へ歩みを進め、アイのそばにちょこんと座った。
「アイさん 感覚を研ぎ澄まし 精霊の声を聞いて下さい 貴方なら、出来るはずです」
アイの手を取り、自分の手を重ね、それが当然であるかのように微笑するイクィ。
風の元素精霊は、次第に回転を増してゆく。 まるで、何かを伝えたいかのように。

アイは言われるまま、得に反論もせず 目を閉じた。

頬に感じる風の感触 ほのかに香り立つ草花の臭い 砂の地面から上り立つ熱気・・・・・・

目を閉じると見えてくる、本当の自然 大地 天 そして、かすかに感じ取れる魔力の粒子・・・・・・

そのまま、感覚というか、そう 心を研ぎ澄ましていると、何か 目を閉じた暗闇の中から一筋の光が見えてくる。

アイはその光に目をこらした。

見渡す限り、白だった。

その世界は全ての色が白で構成された世界だった。

空も 雲も 地面も 生き物も 草木も 全て 全てが白だった。

かろうじて地面と呼べる物はあるが、立っているだけで右か左か 天地が解らなくなりそうだった。

(以前にも、来たことがある・・・・・・)

そう、私が初めてリンスレット 本当ではない母に出会う前に来た場所だった。

(でも、何かが違う・・・・・・?)

そう 前は、不可思議な半透明のオブジェ以外無かったはずだ。

それがどうだろう 今やその白の世界には、『自然があった』

白の世界に 初めて動きがついた。

木があった。 地面に草が生えていた。 その草原の中に花があった。

自分が今立ってる場所がたとえ白一色でも、その光景には驚かされた。


『良く来たわね アイテール』


澄んだ声が 聞こえた。 アイは声の方に振り向く。

プリンセス だろうか 着ている服はきらびやかな宝石に彩られ、碧の眼をしていた。
まだ幼い少女 髪は金色で綺麗な髪留めをしている。

「人には才能がある」とよく言うが、彼女の才能は人を引きつける輝きだろう。
同性のアイでも、そのオーラに圧倒された。


『私の名前は ユリア 旧王国で姫だったの』


いたずらっぽく笑う少女は、その場にしゃがみ、白い花を手に取り 香りを楽しんでいる。
自然を愛し、全てを慈しむ眼をした少女は、笑顔を絶やさず白の世界を彩る・・・・・・

「貴方は、さっきの風の・・・」

ユリアは花を片手に、ゆっくりとアイの方へと歩を進める。
微笑みを浮かべ、ゆっくりとした歩調で、やがてアイの目の前に立つ。
そして、アイに白い花を 白一色の花を目の前に差し出し、こう言った。


『貴方は 世界を壊す存在』 


いたずらっぽい笑みだった。

「なッ・・・・・・!!」
アイは、目の前の少女の言ってることが解らなくなった。

「は、ははw アタシが世界を壊す? そんなこと出来るわけないでしょw」
乾いた笑い声と共に、なんとか言葉を絞り出す。

『ううん、貴方は壊すよ 文明も 自然も 人も 夢も なにもかも』

そう言ってユリアは、手に持っていた花に息を吹きかける。
すると白い花は、風化した石のように脆くなり、やがて砂となって風に運ばれ、やがて無くなった。

『ほら、この世界はこんなに脆いのに、貴方は壊そうとしてる』

そうでしょ?と首をかしげながら可愛らしく笑うユリア。

「なんで、アタシが、世界を壊そうとするのかな?」
苦しげに、汗をにじませながら、ユリアに問う。

『おしえてほしい? アイテールになら教えてあげてもイイケドなぁ~♪』
楽しそうにくるりとその場で回転する。
アイは憤りを押さえながら、言う。
「教えてくれないかな? なんで、アタシが、世界を壊すのかな?」
しょうがないなぁ~♪とユリアは、至極楽しそうに言い、アイの耳元でぼそっと呟いた。


『だって貴方は、龍だから』


ユリアは、声を押し殺し、感情も押し殺し、そう 呟いた。


「あたしが、龍ですって?」

アイはユリアの言っている事の意味がわからず、聞き返した。

ユリアは んふふ~♪ と嬉しそうに微笑んでいる。


『そう 貴方は龍 破滅の象徴 忌み嫌われ 妨げられ 厄災とされる者』

ダンスを踊るようにアイの周りをくるくる移動しながら、歌うように言う。


「あたしが・・・・・・?」


アイは動揺していた。
自分が龍であると言われたからなのではない。
龍と言われてもおかしいという感覚が無かった。


『なんでかな? なんでだろ? それは貴方がよく知ってるよ♪』


何がそんなに楽しいのか、ユリアは満面の笑みを浮かべながらクスクス笑っている。

まるでこの世界の全てが楽しみに満ちあふれているような そんな笑い方だった。


「じゃあ、なんで貴方は私が龍だと解るの? 初めてあったんだよ?」


そばにちょこんと座り込んだユリアの目を見て、アイが聞く。
ユリアは少し苦笑し、アイの手を取った。

アイは、目の前に座っている少女を抱き寄せた。
無意識のうちに、ユリアは腕の中にいた。



『リンスレット』



ユリアは、無表情でボソっと呟く。


アイは、ユリアの無表情が怖かった。
何もない 感情を押し殺す 感情を出さない 感情を知らない云々ではない。


感情が、無いのだ。


根本から感情が、欠けているのだ。


『なんでアイテールは 龍族の事を知ってるの? 
なんで貴方は知りもしない文をすらすら言えたの?
何で キミは ホンとウのジブんヲ見失ッテイるの?』


機械的な声だった。
無機質な声だった。


アイテールは、手を握られたままユリアを見つめ続ける。



『それは、貴方の中に龍が居るから

炎の龍 創造神の産物 太陽の化身』


そこでユリアは言葉を止めた。


泣いていた。
否、目から雫が流れていた。
無表情の顔に涙の軌跡が描かれる。


「泣いているの・・・・・・?」


アイは、手をギュっと握りユリアを見つめる。


『解らない 私は 泣いているの?』


「そうだよ 泣いてるの」


今までの感情は何処に行ったのだろうか。
アイは、穏やかな気持ちに包まれていた。

自分でも解っていたのだろう。
何故、過去に殺された記憶があるのに生きているのか。
それは、龍族の力がアイを助けたのだ。


『アイ 私は貴方の力になりたい』


ユリアは、静かに呟いた。


『私には自我がないの 
さっきのはアイの思い出を復元させたヴァリスを取り込んだから
私は本来ここにいてはいけない存在だから
必要なことを伝えたら貴方の盾になる』


ユリアは立ち上がり、何もない白い空を仰ぎ見る。

『まず一つ目 貴方は聖域に行かなければならない
そのためにも、イクィやトグの力が必要なの
貴方は彼らを信用できないと思ってるでしょうけど、それは違う
彼らこそ、貴方が守るべき新たな存在』


そこでユリアは言葉を止め、空中に手をかざし魔力を貯め始める。


「アタシ自分のことで精一杯だったから」


アイは、俯いて拳をぎゅっと握った


「ハースを自分が殺してしまったことも
それを救えなかったアイツ等も、初めは憎かった」


自分でもそれが八つ当たりであることは解っている。
二人は、一人のの友人を元に戻すため戦ってくれた恩人なのだから。
だが、アイの心はあの時狂ってしまった。
自分が、魔群になったハースにとどめを刺してしまい、心臓を貫いたこと。
ハースが、今も首に書けているネックレスを死にそうになりながらも付けてくれたこと。
(いってらっしゃい)そう、自分が言ったこと・・・・・・。

今も目を閉じれば蘇ってくる。
あのとき感じた手の感触、ハースの、申し訳なさそうな顔。


「でも、そこでハースが生き返った 何でなのかも教えてくれないし、分けわかんないことが多すぎて・・・・・・」


自分はもう、常識を越えた出来事に直面しすぎて、頭がおかしくなりそうだった。
今にも発狂しそうで、みんなの前では明るく振る舞っていたが、いつ暴走してしまうか解らない状態だった。


『ハースは、もう私たちの手に負えない』


ユリアは、やっと具現化し始めた魔力を見つめつつ、静かに呟いた。


「どういうこと・・・?」


一瞬不安が胸をよぎり、聞きたくない衝動をこらえ、ユリアに聞く。


『魔群症候群』


魔力が激しくぶつかり合い、パチッ パチッ と音を繰り返し出している。


『魔群が体内に取り込まれ、ある力が魔群に乗っ取られてしまう
ここでは心力と呼ばれているけど、その心力が、一時的に魔力に変換されるの
通常心力は体内の奥底にあり、窮地に陥った者だけが使うことを許された力だから
常人がその心力を使うには相当な時間と鍛錬が必要』


魔力は、人間の頭大の大きさから、一軒家まで膨張している。
ユリアはそれを見上げつつ、ゆっくり魔力を固め始めた。


『心力とは精神面、つまり思考 知能 メンタル的要素全てのことを言う
でも、心力が魔群に取り込まれその分魔力に変換されると、精神力の源である心力が無くなることになるわ
心力を吸収、そして自ら構成した魔力で、魔群は完全に肉体を支配する』


魔力は圧縮され、徐々に徐々に小さく、尚も強力に変化している。
バチバチバチッと音を立て内部に組み込まれた魔法人が幾重にも重なり凝縮されていく。


『そして魔群の力が解放されたとしても、取り付いていた魔群が心力を魔力に変換した分だけ心力は減っている
そして心力が魔力と混合し、神力になるの』


魔力の塊は、やがてビー玉サイズの小さな球体になった。


「ふーん・・・・・・」


アイは、目の前に差し出された魔力の球体をまじまじと見つめながら相づちを打つ。


『神力は、ありとあらゆる万物の具現の象徴 まさに神にこそ許された膨大な力
魔群症候群は、その大きすぎる力を手に入れてしまうことを言うの
聖域には神力を吸い取る水があるわ そこにハースを連れて行けば、蓄積された神力すべてを、元の心力に戻すことが出来る はい、これを飲んで』


ユリアは説明が終わるやいなやアイに魔力の塊を渡す。


「へぇー・・・・・・ ってええええええ!?」


『大丈夫 害は無いから』


そう言う意味じゃなくてと言いかけるが、あまりにも真剣な表情で言うので従うしかない。
アイはこわごわその球体を手に取り、ユリアに聞く。


「これはキミの魔力なの? ていうか、こんな物飲んだらどうなるの?」


冷や汗を浮かべ口の端をひくひくさせながら何とか笑顔で平静を保つ。


『心力を増強させる魔法を50倍にした物よ』


さらりとすごいことを言うユリア。


「えと、心力は一回でどの程度強くなるのかしら??」


『そうね、通常人間には40ミルの心力しかないけど、極める者はだいたい120ミルね
通常魔法の「メンタルアップ」は限定時間が限られて60ミル上がるけど・・・・・・』


そこでユリアは言っても良いのかどうか一瞬躊躇し、人差し指を虚空に彷徨わせ硬直する。


『私の魔法は、限定時間なしの34コデル上がるわね・・・・・・
ちなみに1コデルにつき100ミルね』


ユリアは初めて微笑し、魔法陣を空中にくるくると描く。
魔法陣はその場で緑色に発光し、ユリアの前に文字列を並べた。


『ええと 34コデルの月命×噴石の数値である引力面をたして
魔法衆数が67デリカだから滅導の参式、そして心力膨張法則を算出してー・・・と』


なにやら数式をぶつぶつ唱え出したユリアをなるべく見ないようにアイは手のひらサイズの球体を見る。

球体は緑色 金色の術式が円状に巻かれておりとても綺麗だ。
中には水滴なのか、無重力状態の丸い液体の周りを風の螺旋が囲んでいる。

時折水滴の中からきらきらとした物が出ているが、それがなんだか解らなかった。


『そうね、常人の心力総数より78コデル高くなるわ
貴方の心力は4コデル54ミルだから、かなり強化されるわね』


アイにはそれが理解できなかったが、とにかく膨大な力を得ることは確かだと確信した。


『そして、80コデルを越えた者は、心力の全てが神力の4ウィスに変換されるわ
1ウィス100コデルと考えてね 魔群症候群とは関わりのない物だから安
心して』


「おk 理解不能」


アイは耳から煙を出しながらユリアにガッツポーズをする。


『まぁ無理もないわね 心力は技をあやつる数値 神力は奥義を出す数値と考えて?』


ユリアは苦笑しながら、アイに言う。
目の前にある球体 たぶん、古代著書でみた魔石をごくんと飲み込んだ。


『どう?』


「・・・・・・」


別に変化はない。

というか、変わったところは何もなかった。


「変わってないー・・・・・・」


『そうよ?』


「つまんねーーーヽ(#゚Д゚)ノ┌┛(ノ´Д`)ノ」


『いたい! なんで蹴るの!?』


「むがーーーー(,,#゚Д゚):∴;'・,;`:」


『うわぁ? まって! なんで私の肩を ああっ!なんで服を脱がそうとするの!?
まって? そこはだめだって! ちょっと聞いてる!? なんであた ああもう! 
だからそれはだめだって! 目怖いよ!? 
なんで血の涙流しながら「オマエハモウシンデイル」とかいってるの!? 
あたし精霊だからしんでn ああん! そこはだめぇーーーーーーー!!』




それから数分後、ユリアは地面につっぷしながらシクシクと泣いていた。
時折 あたしなんもしてないのに とか聞こえたがアイは気にしなかった。


異常にに肌がツヤツヤしてたが、何があったかは神のみぞ知る・・・・・・と言うことにしておこう。

『それで、伝えたいことなんだけど・・・・・・』 


アイの腕の中でそわそわしながら語り出す。
後ろからアイに抱かれた状態なので、必死に逃げようともがいていた。


「良いにおい・・・・・・♪」


アイはユリアの心情を知ってか知らずか、ユリアの匂いに酔いしれている。
たぶん、これはユリアの魅力なのではなく、アイの癖であることを読者のみんなには説明しておこう。


『ぁぅー・・・ はなしてぇー・・・』


ユリアは尚もばたばたと全身全霊でアイの羽交い締めを振りほどこうとするが、
異常に堅く絞められた腕には叶わない。


「却下」


『そんなぁ~・・・・・・』


死刑宣告をされた囚人の如く、目に涙をためしゃくりあげるユリア。
その可愛らしさに心打たれたのか、アイもヽ(゚∀゚)ノ パッ☆っと手を離し


「わかったわかった」


名残惜しそうにユリアを解放した。


『ふぅ・・・・・・』


やっと解放されたユリアは、衣服の乱れを直すため立ち上がる。
うなじにキスマークがある気もしたが、ユリアは見て見ぬふりをした。


「顔、赤いわよ?」


アイがいたずらっぽく笑いながらユリアに聞く。


『ふ、不可抗力だもん!』


ユリアもユリアで、顔を真っ赤にしながら うー と唸ってアイをじとーっと見つめた


「ていうかキミ感情戻ってるやん さっきあんなに無機質だったのに」


アイは手持ちぶさたなのか、地面に座りながらそばにあった木をぺたぺた触っている。
この世界の植物は、皆通常の 元の世界の物質そのものではなく、魔力によって構成されていることが解った。
だから、手に魔力を込めれば、相殺され触れた空間の分だけ消えてしまうのだ。


『ひどくない!? アイテールの記憶を元に作られた人格だよ!?』


後ろをバッと振り返り抗議する。
怒った顔も可愛いなーとか思いながらアイはへらへらしている。


「あらそうなの? アタシこんなんかなぁ・・・・・・」


『うん、もぅいいや・・・』


深いため息をつきながら、ユリアは説明を始めた。


『聖域に行く理由の一つで、さっき飲んだ心力増強球体形魔法「メンタルボール」を使ったでしょ?』


アイがこくこく頷く。


『あれは、聖域の世界に相応した心力がないと肉体が耐えきれなくなるの
人間は空気がないと生きられないでしょ?
それと同じで、地世界にしかない魔力を中間世界である聖域では数が少ないから
肉体を維持する時間が限られているの』


「ようするに聖域の魔力は天上、地世界の魔力双方を持ってるから、数は半減されてる訳ね」


アイは数秒考え、そう言った。


『理解が早いわね 聖域にいるには心力を最大限に使わなければならない
でも、肉体を維持するには230ミルでいいの』


「え? あたし4000コデルなんだけど・・・ 多すぎない?」


何で?と首をかしげながらアイはユリアに聞く。


『まぁ常人でそんなに心力を持ってる人は居ないわね
聖域に行く素質を持つ物でもせいぜい5コデルが良い所だわ』


ユリアはその場から三歩前進。


『聖域には 龍が居る』


立ち止まり、アイの方を向きそう言った。


『そう、二つの世界 天上世界に3匹 地上世界に3匹 そして聖域のある、中間世界に2匹』


ジェスチャーで3、3、2の円を描きながら次の言葉を出そうとしたが


「中間世界は双方の長が居るのよね、創世記の争乱を世界を二分して止めたと言われる」


アイに言われてしまった。

地世界には、氷 水 土の龍
天上世界には、闇 風 雷の龍
そして中間世界、聖域には、光と炎の長が居るという。

闇の龍は、昔炎の龍の決闘に敗れ、長の座を追われた神話がいまでも書物に記されている。


『そうよ そして一頭の長である、バルムンティア 貴方の、お父さんよ』


ユリアはビシィ!っと人差し指を突き立て、アイに言い放った。


「はうーん ってうぇええええええ!?」


予想以上にデカい声が出たらしい、ユリアは目を丸くしながら、数秒硬直してしまった。

しかし、自分の父親が龍だと解ってそんなに いや、結構驚いたが
まぁ許容範囲内の部類だった アイは龍族の血を引いているからだとは思うが。


『そ、そんなに驚くのも無理はないけど・・・ カスケードっていうのは偽名よ?』


ばくばくと高鳴る心臓を押さえつつ、苦笑しながらアイに言うユリア。


「まじですか・・・・・・」


『うん、人間になりすますっていうのもなんだけど、アイテールが何不自由なく育つようにって』



「お父さんがドラゴンかぁ・・・・・・ あたしすげぇなぁ・・・・・・」


アタシすげーーー!とか言っているアイを無視してユリアは説明を続行する。


『そして、龍族の長っていうのはそれ相応の魔力を秘めている
そんな魔力の塊みたいなのに常人が近づいたら間違いなく発狂するわ』


「ってことは、聖域にお父さんに会いに行くみたいな感じなの?」


『そゆこと』


なるほど、つまり私は、お父さんに会いに・・・・・・。
いや、ハースのこともある それにはイクィ、トグの力が必要、か。
考えてみるとこんなことみんなの前で言えなかっただろうな・・・・・・
私だって、未だに信じられないけど、ハースのことも、自分の死も、全て現実・・・・・・


「やったろうじゃない・・・」


『え?』



「聖域だか関ヶ原だか知らないけど、行ってやろうじゃないのさ!」



『おおっ! なんかアイテールがやる気出してる』


ユリアは嬉しそうに手をパチパチと鳴らしながらはしゃいでいる。


・・・・・・その前に、まだここでやることがある。


アイは、ユリアの方へ向き直り、微笑んだ。
ユリアも釣られてにへぇと可愛らしく微笑む。


「いただきます」



『ええ!? ちょ、またこれなのーーーーーー?』



この世界に初めて、性欲の文字が刻まれた一瞬であった。





~1時間後~


「じゃあ、色々ありがとう」


アイはユリアに微笑み、ひとときの幸福を味わった余韻に酔いしれつつ、別れの言葉を告げた。
ユリアもへらへらと力なく手を振る。


『あ、まって 私の力 貰っていって』


ユリアは、自分の懐から腕輪のような物を取り出し、アイに渡した。


「これは?」


その物体は金色の装飾が施してあり、緑色の画面になにやら数字と地図のような物が記されている。
時折規則的に機械音が鳴り、自分が何処にいるかが赤い点で描かれていた。

よく見ると、地図が表示されている左の方、つまり、左手に付けるならば甲の部分に、
5つのボタンがあった。
一つは、現在位置 もう一つは、外部通信 そして真ん中の青いボタンは、探索装置。
最後の二つは、文字が書けていて読めなかった。


『おまもり♪ ブリーフマーカーっていうんだよ』


ユリアは、自分の左手にはめられたアイの持っている物と同じ腕輪を煌めかせた。


単純に説明がされた。

初めのボタンが、そこで押すと自分の周囲にある地形や建物が表示され、自分の位置が赤い点で記されるという。

外部通信は、これを持つ他の人物とブリーフマーカーを接続することにより、何処にいても連絡が取れるそうだ。

探索装置は、魔群 聖域の人物 中間世界の物質や人物を特定するときに使われるが、現在位置状に表示されている範囲しか特定できないのだという。

最後の二つが、物質識別装置と魔導石識別装置。
物質識別装置は、その物質にスコープを当てることによって物質が何で出来ているか判別できるという。
魔導石識別装置は、惑う石の属性や特性を、ブリーフマーカー内の書物のデータを引き出し判別するのだという。


「携帯みたいだ・・・」


ユリアの説明を聞きつつアイはボソリと呟いた。


『? 携帯って、なに?』


「うんにゃ、こっちの話」


アイはなんでもないという風に手をひらひらさせ答えた。


『そう・・・ あ、最後に一つ』


ユリアは、歩き始めたアイを呼び止め、アイのそばに駆け寄る。


『お父さんに、よろしくいっておいて^^』


「('◇')ゞ」


ビシッと敬礼


『じゃあ、送還するね』


そう言うと、ユリアは魔法陣を起動させた。
空中に描かれた魔法陣は、まるで幾重にも巻かれた錠がほどかれるように、
空間に緑色のトンネルを造った。
トンネルの内部はうねうねと動き、発光している。


「また会えたら、ハグさせてねw」


アイは、トンネルの内部を進みながら、ユリアにそう言った。



『か、考えておく・・・・・・』



そう言ったユリアの表情は、幾分か楽しそうだった。







~アリアン広場オアシス付近~


元の世界に戻ると、私はさっそくブリーフマーカーで現在位置を確かめる。


そして地図を確認したとき、青い点が自分の周りを囲んでることに気付いた。


周囲を見渡す。


三人が、雑談していた。


楽しそうに、私のことなんか忘れて。


フロが私に気付いたのか、嬉しそうに駆け寄ってくる。


「おかえりなさい!」


ガバッと私の胸の中に飛び込んでくるフロ。


そして、トグとイクィ。


「お帰りなさい アイさん」


滅多に見せない微笑みを称え、私の手を取るイクィ。


「帰ったか、アイ」


同じく、にこやかに笑いながら私の頭をぐしぐしと撫でるトグ。


「みんな、もしかしてブリーフマーカーを?」


私が怪訝そうに聞くと、左手に付けられた金色のそれを、ニヤニヤ(・∀・)しながら私に見せた。


多分、ユリアは同じ時間、同じ時に私たち四人を連れて行ったのだろう。


そして、多分、私の両親のことも・・・・・・


「うーっし じゃあ早速支度するよ?」


私は背伸びをし、宿屋方面へ向かい出す。


フロはあわててアイの左手にしがみついた。


「つらく、ないですか?」


フロは、私の父親が龍であることを気にかけてると思ってるのだろう。

私だってそりゃ驚いたけど、やっぱり心の中では認めているのだ。
自分が、龍の血を引き、聖域に赴かなければならないこと。

ここにいる三人を、はなっから信じてないと思いこんでいたこと。


「フロ君」


私はしゃがみ、フロの肩を抱く。



そして、唇を奪った。



「~~~~~~!!!」


プハッと話される唇と唇。


フロは訳がわからず、顔を真っ赤にしながら抗議しようとしたが、アイは人差し指をフロの口にそっと添えた。


「お父さんに 会いに行くよ」


立ち上がり、イクィとトグにそう言う。


「もち、その赤石だかデコ広だかしんないけど、それも潰そうぜw」


満面の笑顔で、親指をグッと立てて。


























ここから、私の旅は始まった。

天雷の申し子 フロワード

宵闇の化身 イクィ・エヴァ

蒼炎の闘神 Togusa

これは、記憶を巡り、冒険を続ける、八人の物語である。


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